『智伯の贈り物』
主文

 ── 智伯、衛を伐たんと欲し.

 智伯欲伐衛 遺衛君野馬四白璧一 衛君大悅 群臣皆賀 南文子有憂色 衛君曰 大國大懽 而子有憂色何 文子曰 無功之賞無力之禮不可不察 也野馬四白璧一 此小國之禮也 而大國致之 君其圖之 衛君以其言告邊境 智伯果起兵而襲衛 至境而反曰 衛有賢人 先知吾謀也

 智伯、衛を伐たんと欲し、衛君に野馬四 白璧一を遺(おく)る。衛君大いに悦ぶ。群臣皆賀(いは)ふに、南文子に憂色有り。衛君曰く、大国大いに懽(した)しむ、而るに子に憂色有るは何ぞや。文子曰く、無功の賞無力(りき)の礼は察せざる可からず、また野馬四白璧一、此れ小国の礼なり、而るに大国之を致すこと、君之を図れ。衛君、其の言を以て辺境に告ぐ。智伯果たして兵を起して衛を襲ひ、境に至るも反りて曰く、衛に賢人有らん、先だち吾が謀を知れるかな。


 晋国の名門である智伯が衛国に攻め込みたいと考え、衛の君主に野生馬四匹と白い宝玉一つを届けた。衛君は喜びもひとしお。朝臣一同もそろってお祝いを述べたが、南文子に沈んだ様子が見られた。衛君は気になって問いかけた「大国の覚えもめでたいのに、先生には表情が暗いとは何ごとでしょうか」文子は顔つきが厳しかった「手柄がないときの褒美でも骨折りがないときの謝礼でもしっかり究明しなければならず、おまけに野馬四の白璧一、およそ卑しい小国のご機嫌伺いでございますが、それを大国がうやうやしくやっているのです、わが君はそこのところをお覚悟召されよ」衛君はあわててその警告を国境まで周知させた。智伯がいよいよ出兵して衛を奇襲し、国境まで行きながらも、突然引き返して言うには「こりゃいかん、衛には切れ者がおるようだ、先刻わが秘策をお見通しとは」

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