『やむをえない舞台裏』
主文

 ── 魏文侯道を趙に借り.

 魏文侯借道於趙攻中山 趙侯將不許 趙利曰 過矣 魏攻中山 而不能取 則魏必罷 罷則趙重 魏拔中山 必不能越趙而有中山矣 是用兵者魏也 而得地者趙也 君不如許之 許之大勸 彼將知趙利之也必輟 君不如借之道而示之不得已

 魏の文侯、道を趙に借り中山を攻む。趙侯将に許さざらんとす。趙利曰く、過たん、魏、中山を攻むとも、取ること能はずんば、則ち魏必ず罷(つか)れん、罷れば則ち趙重からん、魏、中山を抜くとも、必ず趙を越す能はずして中山を有(たも)つなり、是れ兵を用ふる者は魏なるも、而も地を得る者は趙なり、君許すに如かず、之を許すこと大いに勧めんも、彼将に趙の之を利とするを知るや必ず輟(や)めんとす、君、之に道を借(か)すも、而も之に已むを得ざるを示すに如かず。


 魏の文侯の発した遠征軍が趙国の土地をよぎる進路で中山国へ侵攻した。
 領内を侵略者に横切られる趙の殿様は心境穏やかではなく、領土侵犯を口実にして邪魔立てしてやろうかと考えた。
 すかさず趙利が進み出てなだめた。
 「ぶち壊しでございましょう。
 魏が中山へ攻め込んだところで、骨折り損に終われば魏は必ずくたびれます、くたびれれば趙が重くなるというものです。
 そして中山国に抜け駆けした魏がまんまと彼(か)の土地をもぬけの殻にできましても、間違いなく趙を追い抜けもしないで中山国を手にすることになります、それすなわち魏に戦力を負担させておきながら土地は趙がちょうだいするわけです。
 ここはわが君にはお見逃しの一手と存じます。
 お通しになられることは大いに勧めるのですが、向こうは趙に有利なことになるなら行かないに決まっております。わが君は気前よく領内を通らせつつ、やむをえない顔をしておくことが肝要でございます」

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