『引き立て将軍』
第2段

 『引き立て将軍』─2.

 王曰 公叔豈非長者哉 既為寡人勝強敵矣 又不遺賢者之後 不掩能士之跡 公叔何可無益乎 故又與田四十萬 加之百萬之上 使百四十萬 故老子曰 聖人無積 盡以為人 己愈有 既以與人 己愈多 公叔當之矣

 『王曰く、公叔豈に長者に非ずや。既に寡人の為に強敵に勝ちたり、又(ま)た賢者の後(のち)を遺(も)らさず、能士の跡を掩はず。公叔何ぞ益(えき)無かる可けんや。故に又(ま)た田四十萬を与へ、之を百萬の上に加へ、百四十萬を使はす。故(ふる)く老子曰く、聖人積無し、盡く人の為を以てするも、己れ愈(いよ)いよ有し、既に人に与へるを以てするも、己れ愈(いよ)いよ多し。公叔之に当る。』


 この微笑ましい一件にはたいへん考えさせられる結末がまだ続く。なにしろ魏王は次のように感心していた。
 「公叔はなんとできた人間か。君主のために大功を立てた大将だというのに、名臣の忘れ形見たちの暮らし向きもちゃんと気に掛け、それから働きのあった者たちの目立たない努力も埋もれさせない。これだけ周囲に気配りしていることに報いないでいいものか」
 だから公叔によって名指しされた者たちに褒美をとらせた後で、それと同じ田四十万を公叔にも加増している。つごう田百四十万、これはもう戦勝のご祝儀では済まない。
 すっかり古くなってしまったが、老子に次の言葉がある。
 「聖人はむさぼり取らない。まったく人のためにするのに結局は自分が物持ちになり、人に与えたはずなのに結局は自分のところに増えてゆく」
 この一件の公叔はまさに聖人の方法論をやってくれたのである。

inserted by FC2 system