司馬遷『史記』の制作にあたり、とくに列伝の記事で資料となっている「戦国策」。
とはいえ、「戦国策」という書物としての成立は『史記』より100年ほど後れる前漢末。漢代初期に書かれたと推測されるいくつかの作品が前漢末の劉向という学者によってこの一書にまとめられました。
つまり『史記』が「戦国策」を参考にしたと言うと少しおかしな話になります。『史記』制作時に存在していたものはあくまで100年ほど後に「戦国策」としてまとめられる数種の小作品でした。
のちに「戦国策」となるそれら小作品については、『国策』『国事』『事語』『短長』『長書』『脩書』などの名が伝わっているそうです。
それら小作品をまとめ、「戦国」と題しているように、この書の内容は全編が中国戦国時代を舞台としています。
その前の時代である春秋時代を舞台とする歴史文学の正統的古典は『春秋左氏伝』と『国語』。この「戦国策」は『国語』のほうの続編にあたる後継書と言っていいようです。
『春秋左氏伝』と『国語』、両書の違いは「左氏」と「語」という字句に表れています。
春秋左氏伝のページに書いたように、歴史を事件・行動という事象の面から記述する方法が「左氏」です。一方、『国語』の他に『論語』という有名な古典もあるように、「語」は歴史などを人物の言動という面から記述する方法。
「戦国策」も人物の言動が記述内容の中心なので、『国語』の類型になります。
ただし、記述対象とする時代の前後関係で言えば『国語』の後継にあたる「戦国策」ですが、著作時期も『国語』より後れるとは限りません。しかし前漢末、「戦国策」という一書としてまとめられた時期にはすでに『国語』という書があったため、劉向という編集者の方針においては『国語』の後継書だったでしょうか。
さて、この書の内容については、かんたんに言えば歴史小説です。
たいへん古い歴史文学の小品集「戦国策」、もちろん全編フィクションです。
が、だからといって、好きな人だけ読めばいいとも言えません。古い樹木はたいてい有難味のある大木になります。この書もいつまでも著作当初のいかがわしい読み物ではありません。
Jul 09, 2017 - サイト管理人
─ 『戦国策』選集 ─
不誠実な内容は古くから顰蹙を買いながら、それでも珠玉の名文が少なくないためになんとなく伝写を重ねられてきた世渡り上手な創作伝説集。
すると娯楽文学の始祖ということになるのでしょうか。