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ニーチェの誕生

このページの構成

【概要】

古典: 『悲劇の誕生』
成立: 1872年
備考: 

【解題】

 『悲劇の誕生』が哲学者ニーチェの出世作でした。
 ただし出世作とはいっても、この人が『悲劇の誕生』という論文で俗に言う出世を果たすことはなく、むしろ当時のドイツ学界における出世がこの一作によって絶望的になります。
 偉大な嫌われ者のニーチェ。
 彼の名はそういうキャラクターとして世界に広まりました。そんな悪役を宿命付けた『悲劇の誕生』はやはりそうした意味でニーチェの出世作に他ならないのでした。

Munch's Portrait 1

 そこまで当時の学界で疎まれた『悲劇の誕生』、日本の森鴎外も自作小説の中で「いいや、余(よ=僕)はそうは思わん」と完全に拒絶反応していますが、今から見ると案外ロマンチックで微笑ましい論文です。
 『悲劇の誕生』の悲劇はギリシア悲劇。19世紀後半の大学で教えていた貧乏な男が遠い歴史のかなたの古代ギリシア劇場娯楽のことへ真剣に思いを巡らしたというのですから、捨てるほどの若さ無くしては出来ない至りでしょう。
 折しもロマン主義芸術の代表格ワーグナーが旺盛に作曲していたロマン派全盛時代。青年ニーチェもこのころは人一倍ワグネリアンでした。
 ギリシア悲劇。現代にも多大な影響を及ぼす古代ギリシア文化の中にあって、神話・哲学・自然哲学・建築様式などとともに人気のある芸術様式です。
 そして早くもギリシア文明の全盛期にはすでに哲学の研究対象となり、哲人アリストテレスが決定的な悲劇論を残しました。
 この偉大な先達はルネサンス(古典文芸復興)期以降の世界で偶像化され、学問の権威となります。アリストテレス説に反する新説で大向こうから称賛されることは困難でしたが、裏返せば、それに成功した学者は飛躍的に名声が高まるのでした。
 いわばアリストテレスへの挑戦は西洋近代の学者にとってバクチ的な登竜門、すごくでかいヤマ。
 17世紀にはイタリア男のガリレオが物理学方面でそのヤマをみごとに当てました。
 さて、くだんの哲人はギリシア悲劇について、その本質はカタルシス(排泄-生理的な)であると述べています。
 その有名な一言が登竜門に立ちはだかる強力無双の門番となり、実際にギリシア悲劇が上演中だった時代・ご当地の卓見でもあり、誰もそれ以上の言葉は吐けまいと思われている雰囲気があったようです。
 いわば悲劇論は意外な穴場でした。
 ニーチェ『悲劇の誕生』はギリシア悲劇を歴史的起源の面から考察しています。そのためにこの人の言い出した対立概念が有名なディオニュソス的とアポロン的です。
 ディオニュソスはローマ神話のバッカス、酒神。その名前はオリンポスの主神ゼウスと同源、古くはゼウスそのものだったこともあったようですが、最終的にはゼウスの太ももから生まれた子という役どころに落ち着いています。
 酒神ということで、そのお祭り、ディオニュソス祭は狂気をはらんだ乱痴気騒ぎ、頻繁に死亡事故。それがギリシア悲劇の原点である、ニーチェかく語りき。現代でいえばスペインの牛追い祭でしょうか。理性的な観察者を「なぜ?」と当惑させずにいません。あるいは日本でも各地に残る走り狂ったり寒中水浴の奇祭。
 かたやアポロは言わずと知れたギリシア・ローマの花形スター、いやさ太陽神。これぞ端正なハンサム、生徒会長キャラ、イカロスの翼では万物万象の法則に逆らえない悲劇のパパ役を演じました。20世紀には月探検のアポロ計画、アポロロケット、アポロチョコで久々の再登板。
 つまり叡智と理性の神。ニーチェの説明では、ディオニュソス的な激情をアポロン的な理性で律したものがギリシア悲劇であるとしています。
 奔放な情熱と自制的な理知、そう言われればありそうな気もする二元論。

Lou Salomé 1

 青年教授ニーチェは自信満々で発表したようです。しかし学界の反応はほぼ黙殺。漏れ聞こえてくる評判といえば批判ばかり。これでこの新進学者は終わったという酷評も。
 ニーチェは大学教授の職を得ていましたが、哲学科という希望はかなわず、不本意な文献学の講義を担当します。悲劇の起源を論じるという方法はそこから発するようです。
 その成り行きで『悲劇の誕生』は文献学論文でした。そして文献学にしては著者の独創と推論だらけではないかと付け込まれました。
 ニーチェはひねくれます。そして用心深くなります。浮世の冷たい風をまともに受けて、もはやロマンチックな甘ちゃんではいられませんでした。論考対象はドイツ、キリスト教、道徳など、はるか遠い原始ラテン系娯楽よりは身近になっていきます。
 折しも大陸対岸の大英島ではヴィクトリア朝がはや半世紀、きれいごとの正論がのさばる風潮はデカダンでした。
 ニーチェはあらゆる価値の価値転換を表明します。

Jul 13, 2017 - サイト管理人




【 2001年宇宙の旅 - 冒頭 】
 『ツァラトゥストラかく語りき』 - 導入部

compose: Richard Strauss
play: Karajan, VPO

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